このページのまとめ
学習のポイント
- 有機物は立体的な分子構造をしており、くさび型表示で表すことがある。
- 異性体とは分子式が同じだが性質が異なる物質のことであり、様々な種類が存在する。
- 構造異性体とは、分子式が同じだが、構造式が異なる物質のことである。
- 光学異性体とは、構造式が同じだが、不斉炭素原子により立体構造がことなる物質のことである。
- 幾何異性体とは、構造式が同じだが、二重結合により立体構造がことなる物質のことである。
- 配座異性体とは、構造式が同じだが、環構造により立体構造がことなる物質のことである。
まとめノート

このページでは,異性体について解説します。異性体とは,有機化合物において分子式が同じだが性質が異なる物質を指します。性質が異なる要因は様々あり,構造式が違っていたり,立体構造が違っていたりします。それぞれの異性体について解説することで,各異性体の特徴が理解できるようにしています。
【有機物の立体構造】

有機化合物の異性体について考えるときには,有機化合物の立体構造を把握しておくことが大切です。有機物の構造式は一般的に上下左右に分かれた価標で表しますが,実際には炭素原子まわりに四本の結合が形成されている場合は正四面体の広がりを見せます。この形状を表す表記方法として,楔形表示が知られています。紙面上に置かれた結合は直線,紙面奥に伸びる結合は点線,紙面手前に伸びる結合は楔形で表記します。以降の解説でこうした表記を用いていきますので,必ず覚えておきましょう。
【異性体】
異性体の分類

先述したように,異性体とは,分子式が同じだが性質が異なる物質です。このうち,構造式が異なるために性質が異なっているものを構造異性体と呼びます。一方,立体構造が異なるために性質が異なるものは立体異性体と呼びます。立体異性体の中にも様々な区分があり,光学異性体,幾何異性体,配座異性体などがあります。それぞれについては,後の章で解説します。
構造異性体

構造異性体とは,分子式は同じだが,構造式が異なる物質です。例えば,C4H10で表されるアルカンにはブタンと2-メチルプロパンの二種類が存在します。これらは互いに構造異性体の関係にあると言えます。
光学異性体

光学異性体とは,分子式・構造式は同じだが,不斉炭素原子の存在によって立体構造が異なるものを指します。ここで不斉炭素原子とは,炭素原子まわりの四方向それぞれに異なる原子団が結合している炭素原子です。光学異性体は旋光性(偏光の振動面を回転させる性質)をもつため,光学活性な物質と呼ばれます。また,光学異性体のうち,鏡写しの関係にあるものは鏡像異性体と呼ぶことがあります。

光学異性体の数は一般に2の(光学異性体の数)乗で表されます。ただし,分子内対称面をもつメソ体を含む場合は例外となり,光学異性体の数が少なくなります。メソ体は分子内で旋光性が打ち消されるため,光学不活性になります。また,旋光性が反対の化合物を等量混合し,全体で光学不活性とした混合物はラセミ体と呼びます。
幾何異性体

幾何異性体は,分子式・構造式は同じだが,炭素間二重結合によって立体構造が異なる異性体です。全体としてくの字型になっているものをシス型,直線型になっているものをトランス型と呼びます。シス型・トランス型の区別は,環状構造を有する化合物においても用いられることがあります。
配座異性体

配座異性体は,分子式・構造式は同じだが,六員環の構造によって立体構造が異なる物質を指します。シクロヘキサンでは,ふね型といす型の二種類が安定的に存在しています。